やっぱ最後はさ、リゾートでのんびりしてから帰りたいよね
去年の夏、10日間ほどでジャカルタからバリまで、ジャワ島を横断する旅にでていた。その旅の締めくくりをバリのリゾートで過ごしたい、そこで英気を養って東京に帰りたい。
そういう希望を持っていた。そして、その旨をいっしょに旅行する現地の友達に伝え、いろいろアレンジしてもらった。
今回の旅行は火山登山×2がメイン。その合間にほかの現地の友達にあっって旧交を温めたりして、100点といっても過言ではなかった。(関連記事はこちらからどうぞ)
最後の締めのリゾートも、事前情報では、バリ最後の秘境と言わんばかりの触れ込みだった。
なんせ、「人が少ないから喧騒から離れてゆっくりできる、観光客が少ないからプライベートアイランド感が漂うよ、きっと!」なんて言われてたのだ。ぼくにしたって、ひねくれものだからすんなりバリの定番のリゾートじゃおもしろくないと思っていたから、まさにうってつけだったわけだ。
事前のプランは、朝ボートで島に向かい、島の散策とシュノーケリング、そしてBBQしてキャンプ。翌朝、朝日を拝んで、バリに渡って帰国の1泊2日。とても良い。
むしろ、ゆったりするんだから、なんとかもう1泊できないかとすら思っていた。
ところが、前日になって現地コーディネーターと打合せの場を持つと、明日の朝はボートが出せないから昼過ぎの出発になるという。潮の流れが良くないのだそうだ。
それは事前に、あるいはもっと早くわかっていたことではないのか?こっちは明日の朝ボートで待ちに待ったリゾートアイランドに向かう気なもんだから、がっかり感とフラストレーションが漂ってしまっているぞ。
そして、謎に空いてしまった明日の午前は何をすれば良いのかさっぱりわからない。バリ島に向かうフェリーが停泊するここバニュワンギは何もないのだ。
しかし、出せないものは仕方ない。それに従うほか選択肢はない。
我々は待った。忍耐強く待った。
そして翌日、昼過ぎ。風は強い。
今日はもうだせないとか言うんじゃないだろうなという疑念を抱きつつ、港に向かう。
「よぅ!お待たせ!こっちの準備はできてるよ。手続きをして出発しよう!」
どうやら予定通り行けるらしく、安心したのも束の間、我々の乗るボートが我々が想像していたものより一回り小さい!
現地の友達も思わず笑ってしまうレベル。
すごいな、これかーなんて言いながら船に乗り込んでいざ出発!
上の写真でも少しわかる通り、波は決して穏やかではない。そして船は細く小さい。
となると結構揺れる。まあ揺れる。でもそれは良い。許容内。
けど、波がぶっかかるのは聞いてない!
いやいや、海パン履いてないし濡れるといけないものがカバンの中に入ってるんですが!? 多少なら許そう。けど、バンバン波がかかるわけです。ザバーンッ‼って。
おまけにスピード出してるから風が強くて身体が冷えて寒くなってくる。
もうね、笑うしかできなくなってくる。だってどうしようもないもの。こういうものか、こういうアクティビティかと思うわけ。遊園地にある急流すべりみたいなもんだと。
それが体感で1時間(実際は3~40分)ほど続いてようやくMenjangan島に上陸。桟橋はあるものの建物は絶賛建設中。よってこの島にいるのは、住み込みの建設作業員7人ほど、日帰りツアー3人、ぼくたち3人、ガイド2人の計12人ほど。無人島だ。
対岸はバリ。
着いて早々、桟橋近くでシュノーケリングを始めた。透明度もそれなりにあって、サンゴがびっしりで小さな魚も回遊していてきれいだった。
なるほど、これが秘境かと思った。立ち入る人が少ない分、他のアクセスの良いシュノーケリングスポットよりも生態系が守られているのかもしれない。
充分満足だった。
その様子に気を良くしたのか、ガイドが少し沖の方に行こうと言い出した。
時間はすでに4時を過ぎている。
ガイドが言うんだからきっと楽しいに違いないと再び船に乗り込み今回のツアー参加者6人シュノーケリングを始めた。正直そんなにおもしろくはなかった。
深い分、大きなサンゴを見ることはできるものの、小魚はいないし鮮やかさに欠けるし数もそう多いわけではない。どちらかというとひっそりとした海だ。
にもかかわらず、なかなか島に帰ろうとしない。長い。
ここで補足しておくと、他のツアー参加者、ぼくら日本人2人を除く4人のインドネシア人はライフジャケットを着用していた。安全のためというのもあるけれど、むしろ泳げないからというニュアンスが強いように思う。
ぼくら日本人はぷかぷか漂うよりも深く潜ってもっと近くで見たいという欲求が強いのでいらないと言ったのだ。ガイドもライフジャケットは着用していないけれどフィン、足ひれを履いてる。楽に泳げるわけだ。
その違いに対する考えが及ばないのだろう。おれはこんなに深く潜れるぜ、お前も来いよとしきりに誘うけれど、俺は足ひれをつけていない。
何度かトライしたけれど、水深4mほどのところでかれこれ1時間ほど泳ぎ続けているというのもあって疲れ切っていた。
陸に帰りたい…
切実にそう感じ始めてからしばらく経ってもなかなか帰る気配がない。
溺れるわ、ボケぇぇえ!と思い始めたころにようやく帰島。
日はすっかり落ちていた。
無人島らしくシャワーはない。なんならタオルもない。
えげつない辛味の唐辛子と味のない魚のフライ、ご飯の軽食をガタガタ凍えながら食べ、日帰りツアー組は船でジャワ島の方へ帰った。
2人のガイドのうち1人が船を操縦して連れて行くので、我々キャンプ組は島で待機。
ガイドは送ってくついでにモリで魚を突いてくるね!BBQしよう!と言って出発した。
島に残ったもう一人のガイドは住み込み建設従業員のところへしゃべりにいったきり帰ってこなかった。
ぼくたちは少しその住み込みのところにおじゃましたけれど、男だらけの環境だからか、良いように言うと部室。悪いようにいうとドブ。汚いし、たぶんシャワーとかも浴びてないから臭い、マジで。耐えれなかった。
時間はたぶん夜の7時くらい。風がでてきた。かなり寒い。
繰り返すが、タオルすら与えられていない。ぼくは温室育ちのか弱い先進国民だぞ、簡単に死ぬんだぞと言いたかった。
何もすることがないぼくたち3人はただ無言で夜の海を見ていた。
地平線上に浮かぶ小さな光りを探し、ガイドの帰りを今か今かと待っていたのだ。
なんだか誰も知らない島で遭難したようだった。月明かりが眩しく星も見えやしない。
しばらくして、まとめて荷物を置いている付近からガサゴソと物音が聞こえた。風ではない。誰かが荷物をあさっている音だ。間違いない。
なんだろうと思って見に行くと、あさっていたのは人間ではなく、鹿だった。立派なツノを持っている。奈良の鹿よりデカい。
あとで知ったのだけどMenjanganとは鹿という意味で、つまりここは鹿の島なのだそうだ。
それで、そいつは何をあさっているのかと思うと、なんと我々の明日の朝ごはん (パン) を奪おうとしている!
さっきの軽食だって辛すぎてほとんど食べれていないのだ。ここで食料を減らすのはまずい!
とっさにそう思ったぼくは気づけば、ブルンッブルンとツノを振り回す鹿と威嚇しあっていた。両手を大きく広げ、自分を少しでも大きく見せ、俺のッ‼飯をッ‼狙うんじゃねぇ!!ばかやろう!と叫んだ。お前の肉を俺は食うことだってできるんだぞ!
今思うと突進されると確実に負けていた。けれど、ぼくの本気度、必死の形相が伝わったのかもしれない、なんとか森へお帰りいただくことに成功した。
勝った…安ど感を全身を駆け巡ったあと、思わず笑いが込み上げてきた。
What am I doing here? どうしてぼくはこんなところに?
わざわざインドネシアまで来て金を払って何をやっているんだろうと思った。
自分の食糧を野生動物から守り、ガタガタ震えながら、いつ帰ってくるかもわからないガイドを暗い海を眺めながら待っている。空腹のピークはとうの昔に過ぎた。
切実に、もうキャンプは良いからお家に、日本に帰りたいと思った。温かいスープが飲みたかった。温水のシャワーに、できれば湯舟につかりたかった。たぶん1人なら泣いていた。
結局ガイドが帰ってきたのは夜の10時を過ぎたころだった。
雲で隠れて月明かりがなかったから、魚が見えなくてね、しばらく岸で待ってたと言った。
感覚がバグっていたのか、助かった!生きて帰れる!とまず思った。ガイドに対する怒り、ツアーに対する怒りはもはやない。この発展途上アクティビティを生きて帰れれば良い。それだけが願いだった。
そしてBBQ。
魚が焼けたのは夜11時を過ぎていた。
お腹はもはや減ってはいなかったけれど、取れたての魚はおいしかった。
風が強すぎてテントは張れず、掘っ立て小屋で一夜を明かした。もはやキャンプですらない。遭難だ。
そして、正確にいうと仮眠だった。なぜなら朝日を見るために早起きしないといけなかったから。
朝日はたしかにきれいだった。
けれど、ここまでの道のりを思い返すと、果たしてそこまでの価値はあるのかと思わずを得なかった。ありふれたきれいな朝日に過ぎなかった。
そして、ようやくバリ島に上陸。現地の友達の友達の家でシャワーを浴びさせてもらったとき、生き返った心地がした。
ネットで調べるとMenjangan、メンジャンガン島はリゾートと書いてある。くそったれキュレーションメディアめ。行ったこともないくせに。実態は値段だけリゾートだ。
なぜか。
このメンジャンガン、上陸、滞在1日あたり2000円の外国人費用が発生するのだ。ダイビングでメンジャンガン付近を潜る場合、上陸するならそれが一時的なものでも2000円かかる。めちゃくちゃ高い。ぼったくりにもほどがある。
だから、まともなダイブショップとダイバーたちは近くで潜りこそすれ、決して上陸しない。
結果、かつて整えた桟橋は朽ち果て、廃墟と化すほど寂れ、リゾートという名前だけが独り歩きする。ちなみにいうとMenjanganで検索してでてくる画像のダイビングの写真はともかく、島の写真できれいなものはすべてウソだ。メンジャンガンですらない。ほんとうに。
だってぼく上陸したんだもん。見たもの、島の現実を。
終わってみれば、笑える思い出だけれど、まともな人にはおすすめできないね。
冒険を求める人にはおすすめする。お宝はないけれど。
とにかく、2018年夏、インドネシアの旅これにて完結。
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