どうしてぼくはこんなところに

されば銘記せよ!人の命は短く、その住まう処は地の狭き片隅なり

貧しい社会と豊かな社会を繋ぐ架け橋になる「THE BLUE SWEATER」

 

The Blue Sweater: Bridging the Gap Between Rich and Poor in an Interconnected World

The Blue Sweater: Bridging the Gap Between Rich and Poor in an Interconnected World

 

久しぶりにパンチのある社会起業系の本を読んだ。 *1

 著者は現在はアキュメンファンドという社会起業系の非営利と営利の間に位置するファンドを運営してアフリカやインド、パキスタンで貧困という社会課題と闘う人たちを支援している。

本書はそんな著者のこれまでのキャリアを通して経験したことが綴られている。

 彼女のキャリアは1980年代のウォールストリートの投資銀行から始まる。

仕事で訪れたブラジルで格差を目の当たりにし、「貧困に喘いでいる人ほどお金が必要なんだから彼ら彼女らにこそ融資、投資すべきではないのか。すでに豊かな人に投資して投資銀行として意味があるのか」という疑問を覚え、投資銀行を退職、NPOへ。

当初、自分が目の当たりにした中南米のプロジェクトを志願していたが彼女が実際に赴くことになったのはアフリカ。

現地の空港に着いて早々に出迎えてくれた現地人に「別にアフリカは支援なんて必要なないのよ、特に(若くフランス語もおぼつかない白人女性の)あなたにはね」というドぎつい洗礼を受ける。さらには、配属先の何者かに毒を盛られてしまう。

アフリカ社会の女性の地位向上という同じミッションを行っている人たちに、だ。

キャリアの初め、知り合いもいなければ言葉もまともに通じない見知らぬ土地で、不安と期待の入り交じる時期にこんなことことをされると、世界を嫌いになりそうなものだけれど、彼女はその不遇に負けなかった。

そして、幸運にもルワンダで女性の所得向上、自立を支援するマイクロファイナンス組織の立ち上げに参画する機会を手にする。そこで見事、所得向上に成功し、ビジネススクールへ進学し、メンターとなる人物から「世界で起こっていることはアメリカ国内でも起こっている」と印象に残る言葉を受け、アメリカ国内の問題にも目を向ける。某財団で今度は自国の成功した裕福な起業家、資産家向けに社会貢献のワークショップを行い始め、そこで知り合った人たちと冒頭のアキュメンファンドを立ち上げる、というのがブリーフィング。

ルワンダで90年代というと、ルワンダ虐殺*2が思い出されるが、彼女はその時期既に同地を離れていた。が、彼女の現地の知人友人たちはジェノサイドに人生を翻弄されている。また、虐殺の扇動者として勾留されたかつての同志もいる。彼女は虐殺収束後、現地の友人を訪ね、どうしてそんなことが起こってしまったのか理解しようとインタビューしている。

また、2001.9.11のときはNYの、飛行機が突っ込んで倒壊したビルのほんの数ブロック離れたところにいた。

世論はイスラム憎し!に向かう中、彼女らは敢えて中東地域の貧困問題を解決すべく現地へ足を運んでいる。NYで被災者支援をまずやるのではなく。*3

社会起業家は常に逆境の中からものごとを始めざるを得ないものだとぼくは思っていて、その逆境をもろともしない人たちが世の中を変えていくのだと理解している。

著者はキレイ事を並べてやらない理由を探すのではなくて、著者が胸に秘める理想を実現するために、危険を顧みずに、すべきことを情熱を持って取り組んで周りをどんどん巻き込んで大きなインパクトを残している。たぶん本人は危険だとかは、ぼくたちが思っている以上に感じてはいないのだろうけれど、それでも心折れそうになる瞬間っていうのは何度かあったはずで (本書の中でもそのシーンは何度かでてくる)、そういう弱い姿をみせるということも含めて、素直にかっこいいなと感じた。

例によってアンダーラインとか付箋とか引きまくったんだけれど、1番なるほどと思ったのは「現地の人にインタビューのはほんとに注意しないと、彼らは自分たちのニーズを話すのではなくて、ドナー国が想定しているニーズを察して、それを忠実に答えてしまう」ということ。彼らは援助を受けるためにドナー国側の人間に都合の良い教科書的なストーリーをつくってしまうらしい。そんな力学が働くなんてのは思ってもみなかった。たぶん、これからも何度か読み直すことになるだろうと思う。

 

ところで、表紙はアフリカの子なのに、タイトルがブルーセーターなのはどういうことなんだと思ってしまうところだろうから解説すると、このブルーセーターというのは著者が中学生の時に来ていたセーターのことをさす。

思春期の感じやすい時期に、男の子から茶化されてしまったのをきっかけに着ることができなくなり処分してしまう。それが単に燃えるゴミとして出されるのではなく、貧しい人たちへの寄付というかたちで処分される。

全米から何ヶ所かの拠点に集められた古着はそこで上澄みは古着業者に売られ、残りはブロック上に固められアジアやアフリカに運ばれる。そしてそこで現地の服屋に1ブロックいくらといったように販売され、路上で彼らによって売られる。*4

 そういった旅をした彼女のブルーセーターはアフリカの少年のもとにたどり着いた。

そして、なんと信じ難いことに偶然、著者がアフリカの大地でランニングしているときに、かつて自分が来ていたそのセーターを来た少年と出会ったのだという。

どんな確率なんだ、と思うのだけれど実際にそれは起こった。

その経験から彼女は世界は繋がっているんだと「気づいた」ようだ。

 

相互に繋がった世界で裕福な社会と貧しい社会をつなぐ架け橋になる。サブタイトルにはそういう、同じ世界に住んでいるんだからいがみ合うのでなく、互いに助け合おうよ、というようなニュアンスが含まれているような気がした。

 著者が立ち上げたファンドは、途上国で重要な取り組みをしている起業家を支援している。取り組みやアイデア自体はすばらしくても、資金面や技術面の課題でうまくスケールできていなかったところをファンドがサポートする。だからファンドがまず行うのは現地で奮闘する優秀な起業家を探すこと。

 

それ自体、かなりハードルが高いことだけれど、貧しい世界を一刻も早く改善するにはそこの妥協はできないのかもしれない。豊富な資金に数多のコネクション。それをどう効率的に使うか。

必要なのは忍耐、だろうか。本書に綴られた著者の経験、失敗談は学びに満ちていると思う。

TEDにもいくつか彼女の話があるから、ぜひ。

www.ted.com

 

 

 和訳もあります。

ブルー・セーター――引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語

ブルー・セーター――引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語

 

 

*1:ぼくの拙い英語力でどの程度理解できているのかいささか不安ではあるけれど、1ヶ月半くらいかけて読んだ。

*2:94年に発生したジェノサイド。100日間の間に国民の10%〜20%の同国民が命を落とした

*3:なぜ、被災者支援を行わなかったについては、本書を手にとってもらいたいんだけれど、当時、たくさんのボランティアを含む支援団体が活動していたから。憎しみの連鎖を止めるためには中東地域で貧困に終止符をうつ問題の根本からアプローチする必要性を感じたから…と書いていたはず

*4:あなたのTシャツはどこから来たのか?―誰も書かなかったグローバリゼーションの真実に詳しい。