今年度から、知財マネジャーに加えて、マーケティング部門も統括することになりました。
なぜぼくがという話になるかと思うのですが、これは単純な理由で、社内でぼくより詳しい人がいなかったからです。会議であぁだこうだ言っていたら、じゃあお前やれよという話になりました。*1
消極的理由ですが社内レベルで見るとベストな選択ということになります。
- なにをするのか
BtoBばかりやっていた会社で、数年前にだした製品が一般消費者にも需要があるというので、C向けの販促としてウェブで情報発信しようというものです。なので実際の仕事はウェブサイトのディレクションとブログを書くという、果てしなく地味なことです、相変わらず。
それで、良い機会なのでブランディングをしたいなと思っています。
正確にいうとリブランディングですかね。既にあるもののブランディングなので。
弊社は伝統的日本企業でBtoBしかやってこなかったので、営業戦略というのは皆無に等しく、実質商社頼みです。売り込み方法も、この製品はこんなに優れていて、コスト感はこんな感じです云々…といったエンジニアリング主導です。
なにが言いたいかといいますと、このやり方では新製品がでても早晩価格競争にさらされてしまうんですね。中小企業が売れる製品を開発すれば、大手や大企業がより安い価格で場合によってはより高品質な類似品をだします。グローバルの視点でみると中国が低コスト、短納期、安定品質で提供を開始します。
これがいわゆるコモディティ化ですね。
それを避ける手段として、特許で商権を確保しましょうというのが、知財戦略をしっかり練りましょうという要旨です。
それが、ぼくの知財マネジャーとしての仕事です。
20年間の独占販売権の付与、というと凄まじいですが、弱点もあります。
- 特許の弱点
たとえば、6角形の鉛筆の特許を持っていたとします。それまでの鉛筆は丸形の円柱しかなく、机の上に置くと転がってしまい机の下へ落ちるのが問題でした。しかし6角形なら角があるので転がらないという点が新たな発明です。
この発明により20年間独占販売できるので、大した努力もせず毎年莫大な利益を上げることができることになるでしょうか。
おそらくなりません。
なぜなら、鉛筆の独占販売権ではなく「6角形の鉛筆」の独占販売権だからです。ポイントは「転がらない」なので、6角形以外で「転がらない」を達成できれば、6角形の競合となります。5角形、8角形、あるいはキャップつけて転がらないようにするというような解決手段もあるでしょう。
また、シャープペンシルというものが存在するように、鉛筆市場そのものが新しい技術や製品によって駆逐される可能性も十分にあります。
そして、需要がある市場、売れる市場であればその残り香に与りたい企業が山ほどあるので、なんとかして既存特許を回避して「転がらない」を達成しようとしたり、さらなる高付加価値製品の開発の着手します。
特許を取ったからといって、息の長い製品になるとは限らないのです。
- ブランディングでそれをカバーしたい
特許は「そこから買うしか選択肢がない」という状態を合法的に作り出すものですが、世の中には、そうでなくとも市場を支配し得るものがありますよね、その1つがブランドだとぼくは思うのです。
スマホを買うなら高くてもiPhoneを選んでしまう、同じカフェならスタバに行くみたいな。
じゃあブランドをつくるためには宣伝広告費にお金をかけてCMをバンバン流せばよいのか、単純接触効果を上げないといけないのかというのと、それも1つの手段ですがそれがすべてではないですよね。
そもそもブランドというのは、何を信じるかだとぼくは思っています。
Gucciの高いバッグを買うのは、それを買って持ち歩くことによって、「自分は高貴で洗練されている」*2 と思われたい。その欲望を達成するにはGucciのバッグが必要だ、Gucci = 高貴で洗練 だと信じているわけです。意識的にしろ無意識的にしろ。
同じように、Apple は Think different でAppleを選ぶのはクールな奴だと信じ込ませました。
- まずはデザインから
それで、どんなメッセージを製品に載せるか、という話になってくるのですが、これはセールス部門も含めて全体でデザイン思考を取り入れて、その中で見えてきたものをメッセージとして、ブランドとして発信していきたいと思っています。独断で決めても、ブランドとしての価値を生じ得ないので。
- デザインとブランディング
デザインストーリーを作りたいのです。
どういう意図をもって、ユーザーにどう使ってほしいのか、どう感じてほしいのかを含めて、製品を開発・設計させたいと思っています。デザインとは課題解決の手段であるという風に言われるのですが、その手段の解は1つではないので、そこが弊社のブランドになると思っています。
セールスも含めて、全員で検討することによって、価値観の共有ができます。
ブランドが確立するには、顧客体験の均一性がキーになると思っていて、ウェブで発信する情報とセールスから聞く話が違っていると、ブランドとして成り立たないとぼくは思っています。*3
- デザイン思考の効能
そのデザイン思考の過程で、自分たちの会社の存在理由が控えめに言っていくらかは明確になると思っています。さらには、セールスも自信を持って売り込みができるようになるので売り上げも伸び、ブランドも確立して、顧客との話のなから新製品の開発のヒントを拾ってきて…というようなサイクルが生まれるんじゃないかと期待しています。
あくまでも理想論で、ハードルは高いので、どこまでできるのかというのもあるのですが、ブランドも知的財産ですし、ブランドができれば営業活動も楽になり、利益率もある程度高くキープできるものだと思っているので積極的に取り組みたいなと思います。
参考書籍:
デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ティム・ブラウン,Tim Brown,千葉敏生
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/05/10
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