
顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか
- 作者: トニー・シェイ,本荘 修二,豊田早苗
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2010/12/03
- メディア: 単行本
- 購入: 15人 クリック: 250回
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ぼくは直属の部下はいないけれど、知財部門ではマネジャーです。それを良いことに、たまに外部のマネジメント研修とか勉強会に出て、ワークスペースの良い雰囲気であったり意見を発しやすい職場環境について勉強しています。
それで、先日でた勉強会のテーマが月曜日が待ち遠しくなる働き方を考えてみるというテーマで、題材のひとつにザッポスが上がりました。
・ザッポスとは
ザッポスは靴のECなんですが簡単に特徴をあげると、
- 設立10年で1,200億円の売り上げを達成(全米靴通販市場シェア30%)
- リピート顧客率 75%
- 新規顧客獲得の43%が口コミ
- フォーチュン100「最も働きたい会社」最高6位(2011年度)
- 1200億円でAmazonが買収
- 24時間365日の自社コールセンターを設置
- コールセンターのオペレーターは全員正社員(日本の場合正社員率は7.1%)
- オペレーターにはマニュアルなし、顧客対応時間の制限なし(最長10時間つなぎっぱなしの記録あり)
というような目立ったポイントがあって、最近はどうか知らないですが少なくとも当時は世界中のメディアから取材が殺到してました。
ぼくが冒頭のCEOトニー・シェイの本を読んだのも2012年頃で最もホットな時期だったと思います。
で、サマリーは上記の箇条書きの通りなんですが何が他の会社と異なるかというと、企業文化なんですね。社内の雰囲気と言い換えてもいいかもしれません。
見たほうが早いと思うので、動画を貼ります。
(ちょっと長くて英語なんですが、雰囲気を感じていただければ…)
まー派手で賑やかで、楽しそうなわけです。騒がしいとさえ思ってしまいます。各社員のデスク周りはおよそ仕事とは関係のないパーティーグッズが山のように積んでいるわけです。毎日社内をパレードでして周ってるとも言ってます。
いったいいつ仕事してるんだ!?と思ってしまいます。
なんでもこれが日常なようで、取材日だからって過剰に演出しているわけではないようです。(何度も訪問してる勉強会のファシリテーターがそう言ってた)
それで、パーティーライクな点も含めてですが、オペレーターの自由度が高いんですね、仕事っぽくない。
仕事っていうと、英語でも I'm workng for Zappos. っていうあたり、あくまでも会社のために、っていう要素が強いわけです。会社の利益のために働くわけですね。
ところが、ザッポスのオペレーターは、自社商品に関係のない顧客の質問や要望にも答えたり、顧客の欲しい商品が自社在庫になければ在庫のある他社サイトを調べて教えてあげるよう教育されているのです。
そのあたりに目をつぶって余りあるほど電話経由での注文が多いのか(それは果たしてECサイトをやってる意味あるのか)と思ってしまうんですが、電話経由はわずか5%しかない。
ほんと、え、なんのために正社員化までしてそんなことやってんの?って感じなのですがそれが彼らのビジネスモデルの重要なポイントなんですね。
・彼らはぼくらの町の信金さんだ
ぼくは田舎出身なので田舎あるあるで例えますが、田舎では定期的にじいさんや、ばあさんを訪ねてきて世間話9割、仕事の話1割程度 だけしていく信金さんと呼ばれる人たちがいます。*1
保険の営業も似たようなものかもしれませんが、彼らは顧客や顧客になり得る人たちを定期的に訪問して世間話をしたりして信頼を築いて、もしなにかあったらとりあえず相談する人、というポジションに収まろうとします。それで、田舎でなにかあったらというとたいていお金の話になるので、彼らの仕事の利益になる、顧客も助かる、みんなハッピーというビジネスです。
ザッポスはそれをやろうとしてる、体現してる会社なのではないかと思います。
売っている商品が金融商品ではなくて、靴というだけで。
こういう営業と顧客との信頼関係を築くことだできれば、「この人になら任せても大丈夫」「この人から買いたい」と思ってくれるわけで、それは単純な価格競争に負けない強固な基盤を築くことにつながるわけです。ブランディング成功事例ですね。
・そして彼らは社会の孤独を解決した
インターネットで注文して数日後に商品が届く、っていうのは凄く便利です。いちいち店舗へ出向いて、商品を選んで、という時間を節約できるから合理的です。
便利になるというのは無駄が省かれて効率的になると言い換えられるかと思いますが、そうすると世の中は人間的なやりとりが少なくなっていきます。
券売機でラーメンのチケット買ってテーブルに座って、チケット渡せば数分後にはラーメンが運ばれてきます。一言も発することなく、店を後にすることもあるかもしれません。
これは良いとか悪いとかいう話ではなくて、単にそうなっているという話です。接客時間をできるだけ少なくして、店舗の回転率を上げて収益を…というやつです。合理的ですね。
そういう社会にぼくたちは生きているわけです。そういう進歩を急激にしてきたわけです。でもその社会に暮らす人間はそう素早く変化できません。
だって人間の脳は数万年前から変わっていないからです。
そうなると、そんな効率的な社会ではぼくたちは寂しさを感じてしまいます。気軽な話し相手を求めるわけですね。
ザッポスはそこに勝機を見出したのではないでしょうか。リアル店舗とネット店舗の良いとこ取り、ハイブリッドというカタチで。
・それら達成のための正社員化、自由度の高さという働きやすさ
そのハイブリッドでうまくやるためには、オペレーターは機械的な対応ではいけないわけですね、困ったときの○○さんというポジションにならないといけないわけですから。
そのポジションを獲得するためには「この人からお金を搾り取ってやる!」というマインドでももちろんだめで、良き友人や隣人として、利害なく接しないといけないわけですね。
そういうわけで、ザッポスのオペレーターは親切で良い人でありなさいというような教育をされているんじゃないかと思うわけです。
「ザッポスでの仕事中は、良き隣人や友人という役を演じる」というのでは、彼らのビジネスモデルやブランディング的には足りなくて常に良き隣人や友人でいてほしいという意味合いを込めてのマニュアルなし、時間制約なし、というような社員の裁量の大きい内容にデザインされているのではないかと思います。
・たぶん仕事をしてるつもりじゃない
だからオペレーターたちも、よし仕事行くか、みたいな感じで出社してるわけではないと思うんですよね。なんなら顧客の悩みを解決してるヒーローみたいにみなしているかもしれない。プライベートの延長というか、プライベートで誰かの相談に乗ってあげてるようなそんなマインドなのではないかと思います。
・ポジティブは伝染する
それで、無駄に賑やかな社内の雰囲気についてですが、結果的にそういう社員が生き残った結果とも言えると思いますが、そのポジティブさはきっと顧客対応にもにじみ出ていると思います。それは決して悪いわけではなくて、普段コールセンターに電話すると極めて機械的な対応をされるわけで、それと比べるとびっくりしてしまうことでしょう。そこで一気に引き込まれるのはもちろん、楽しそうな人といっしょにいると、こっちもなんだか楽しくなってくるじゃないですか。それってすごく良いことですよね。
ザッポスに対してポジティブな感情を抱くことにつながると思います。
そしてそれは、「あそこは違う」という口コミにつながるわけで良いサイクルが生まれているのではないかと思います。
・まとめ
以上から簡単にまとめるとザッポスは非常識な社風や経営に見えて、価格競争に晒されないために、顧客の心をがっちりつかむブランディングに注力した結果、社員を幸せにすれば業績が上がることに気づいた。なので社員が働きやすいように、ストレスがないような仕組みづくりを徹底した。
結果、社員も顧客も会社もwin-win-winな関係を築くことができた稀有な会社なのではないかと思うわけです。 *2
さて、それでは、自社で取り入れるとすればどういったカタチかという話になるんですが、ぼくの裁量の範囲内では、というか部門の目的は発明促進なので発明し易かったり発明が生まれやすい場をつくるために、どんなクレイジーなアイデアでも発せられる雰囲気をつくることですかね。
極めて当たり前のことなんですけど、社内で1番若い部類のぼくがマネージャーなんで、意見を言いやすいと思うんですよね、上の世代だと将来性とか収益性とか、いろいろきちっとしたことを求められそうじゃないですか。偏見ですけど。
そのためには自分がまずテキトーなことも発信したりして、クレイジーな存在になるかな。