どうしてぼくはこんなところに

されば銘記せよ!人の命は短く、その住まう処は地の狭き片隅なり

真冬の高尾山、凍えながら日の出を待つ徹夜旅

12月某日、ぼくは終電間際の新宿で人を待っていた。

絶え間ない洪水のような人混みの中で予定時刻を10分ばかり過ぎたころにようやく、小柄な「えーまじー」が口癖のシンガポール人を見つけた。

 みんなが家に帰り1日が終わろうとしている中、ぼくらの1日は始まった。

終電で高尾に向かって、高尾山に登り、山頂でひたすら日の出を待つのだ。

 わざわざ真冬にそんなことしなくてもと思うのだけど、そのシンガポール人、フェイがどうしてもというのでぼくは付き合わされた格好だ。

フェイはシンガポール人のエリート大学生で2ヶ月のインターンで日本に来ていた。それまでにも留学で日本に来ていたらしい。

それで、シンガポールには山がなく機会のなかった登山を日本で経験し登山が好きになったのだそうだ。母国に帰る前にもう一度、そしてできれば日の出を見たい。

そんなことを言われてしまって、ついついじゃあ行こう!なんて言って昼寝までしてコンディション十分でやってきたのだけど、フェイと無事に新宿で合流できてしまって少し後悔した。

理由は多々ある。まず、終電間際にもかかわらず人が多すぎる。そこらじゅうで喧嘩してたり、ゲーゲー吐いてたり倒れてたり。挙句の果てに電車内のぼくの真後ろでも喧嘩が始まる始末。ぼくはすっかり参ってしまった。

そしてなにより夜中の外は寒すぎた。もちろんそれなりに厚着をしたのだけれど、冬山装備なんて持ってなかったし、普段引きこもりで冬場は室内でぬくぬくしている身としては寒いものは寒いとしか言えなかったのだ。

それでも平均気温28度の南国からやってきたフェイの体感よりはマシだったろうが。

しかし、来てしまったものは仕方がない。We have no choice. 最早行くしかないのだ。

0:41 中央線各駅停車 高尾行き 最終電車

1:37  高尾到着。

ぼくらにとって幸運なことに駅前にコンビニがあった。

カップ麺で凍えた身体を温め高尾山へ向けて歩きだす。

2〜30分程度で登山口に就いた。

この日の日の出は6時50分頃。

真夜中とはいえ、標高600m程度の山を登るのに3〜4時間もかかるはずがなく、ぼくは登山前から極寒の中で時間を持て余すのかと泣きたくなった。

さらには、まあ当然のことなのだけど登山道は真っ暗。

懐中電灯を持っていたから歩けるものの、夜の山道は他の生き物がいそうで怖いし、なにより寒い。

フェイと陽気に話しながらも、ぼくの頭の中は、この両のポケットのカイロは朝までもつのだろうか、山頂の自販機にはあったかい飲み物はあるのだろうかと考えていた。

フェイは日本に留学していたとあって日本のことを―ネットから仕入れた怪しい与太話が多かったけれど― よく知っていた。

それらのあながち間違ってはいないけれど真実ではないものにぼくがツッコミを入れながらアハハと笑っていたらアッという間に山頂についていた。

自販機で買ったあったかいココアをすすり、夜景を凍えながら眺めること数時間。

徐々に少なからず他の登山者もやってくる。おそらく日の出の時間に合わせて車で登山口にやってきて登ってきたのだろう。羨ましい限りだ。

そして、一日千秋の思いで待ったその瞬間は急にやってきた。

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控えめに言ってとても綺麗だった。待ったかいがあった。わざわざ来たかいがあった。

フェイに誘ってくれてありがとうとさえ言ってしまった。

もしフェイが女の子だったらほぼ無条件に惚れていたと思う。

またやりたいとは思わないけれど。

 

…忘れたころにやるのは良いかもしれない。

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 冬は空気が澄んでいて富士山もきれいに見れた。